アンパンマンについての所感

 

ロールパンナメロンパンナのおねえちゃん♪

 

 そう、おそらくわたしは育児というものに携わる機会がなければ、アンパンマンという絶大な人気を誇るアニメをじっくりと観ることなぞなかっただろう。しかも何回も、何話も。

 「ママあそぼ」と、チビちゃんが持ってくる大量の人形の中から、すかさず「ママはこれ」とロールパンナを手に取る。ロールパンナが好きなのだ。

 

 さて、アンパンマンにあまり詳しくない方にキャラクター紹介などしてみよう。先ずはアンパンマン。彼は正義のヒーローなのだけど、大いなる弱点を持っている。あんこの詰まったお顔に攻撃を受ければ、たちどころに気が抜けてしまう。

 ≪顔が汚れて力が出な~い≫と、案外すぐ弱音を吐く。

 そこへ直ぐさま駆けつけるのがジャムおじさんとバタコさんにチーズだが、このバタコさんがなんとも言えない魅力を醸すキャラだ。彼女は目に見える女子力は限りなくゼロに近い、しかしながら白玉さんという宝塚風の美形キャラクターに好かれている。人気スター白玉さんの心を捉え、皆のヒーローアンパンマンの新しい顔を投げ続けるベテラン投手の役割をこなす。

 ≪あたしもそろそろアンパンマンの顔を投げるの疲れたわ~。四十肩がツライのよ≫なんて、心中穏やかではないかもしれないが。

 

 悪役といえば、主役を効果的に照らす闇の魅力的キャラクターバイキンマン。彼は最高にいいオトコに見えるときがある。わたしはアンパンマンよりバイキンマンを好きな方だ。彼が悪役を買って出るのは愛するドキンちゃんの為で、ドキンちゃんの為なら火の中、水の中、あんこの中。

 アンパンマンは皆のヒーローであるけれど、濃度が薄い。つまり博愛。オンナから見れば物足りないアンパンマンだが、お子様勢にはちょうど都合の良いヒーローなのかもしれない。だけどちょっと待てよ。母親の愛情に極端に飢えた子供は、もしかするとバイキンマンの方が好きなのかもしれない。

 

 何故か二枚目キャラクターに位置付けられているしょくぱんまんというのがいる。なかなか人気があり、ドキンちゃんなぞ部屋中の装飾がしょくぱんまんだらけ。しょくぱんまん様♡といつもの小悪魔ぶりがなりを潜めて本来のドキンちゃんの魅力を奪ってしまう彼を、わたしはあんまり腑に落ちないわと思いながら眺める。四角で白く薄いお姿、しょくぱんまんのペラペラした爽やかさはどこか物足りなく、なんでこのキャラにドキンちゃんがお熱なのかさっぱり分からない。

 

ロールパンナを好きな理由は何でしょう。彼女の胸にはハートがふたつ、ちゃんとある。善悪を抱えている。妹のメロンパンナちゃんはお姉ちゃんが大好き。「おねえちゃん、どこにいるのかなぁ」って、無邪気に会いたがるのだが、ロールパンナの方では葛藤がある。

 愛する妹を、もしも悪の心で傷付けてしまったら。そう慮って彼女はいつも現れては消える。そんなロールパンナを自分は抱きしめたくなる。ロールパンナの出生に触れよう。

 ある日、まごころ草の花を見つけたメロンパンナは、ジャムおじさんに言った。

 「友達もいいけど、おねえちゃんが欲しい」

 ジャムおじさんはまごころ草を使ってロールパンナを作ります。

 「このはなにはね、ひとにやさしく、ひとにつくすちからがあるんだよ。そうだ、このはなをつかって、あたらしいなかまをつくろう!メロンパンナちゃんのおねえちゃんだ」

 ん?メロンパンナが先に生まれているし、おねえちゃんはおかしくない?

 しかし、まぁここはパンの妖精の世界。

 ジャムおじさんがまたアンパンマンの新しい仲間を作り出したことを知ったバイキンマンの方では、またあっちの仲間が増えることに危機を感じた結果、バイキン草エキスを注入してロールパンナ作りの邪魔をする。なかなかふくらまないパンを見て、あーれぇ?なジャムおじさんメロンパンナは言います。

 「ねぇ、あたしのメロンジュースをいれてみたら」

 かくしてメロンパンナ汁が配合されたロールパンナ生地を焼くのですが、かまどで焼き出した途端、かまどに雷が落ちて爆発!

 こうしてエキサイティングに誕生したのがロールパンナちゃんでした。

(※ 出典:ロールパンナのひみつ やなせたかし フレーベル館

 

 アンチアンパンマン。独断と偏見を交えて好きに言ってしまう。

 アンパンマンはひどく不気味な気がするのだ。だってアンパンマンはいつだって善を全面に押し出して押しつけてくる。勿論そんなつもりはなくて、ほんとうに、さらさら、さらさら、曇りなきハートで≪どこかに困ったひとはいないかなあ≫と、毎日パトロールに励んでいる。

 ところでアンパンマンってさ、顔が広いの。ハンバーガーキッドとか鉄火のマキちゃんとかあかちゃんまんやかまめしどん、とか。皆アンパンマンを見れば無条件に彼に好意的で彼を頼る。あれ?それって凄いのじゃない?アンパンマンはあんまり魅力的じゃないよね。という自分の仮設が揺らぐ。いやいやいや、皆アンパンマンに全のイメージを刷り込まれ過ぎだから。アイツそんなに強くないって!同じヒーローなら鬼太郎ちゃんの方がまだ強いし、アンパンマンより人間臭いから。まぁ妖怪だけどさ。

 アンパンマンにどうしてだか淡い猜疑心を抱くわたしは、彼の何が気に食わないのか、アンパンマンしゅき♡と喜んで歌う愛しい我が子と並んで画面に食い入る。

 「アンパンマンは君さ~♪」って歌ってる。皆で偽善者になれと?うんにゃ、皆ちゃんと優しい心は持っているよ。だけどアンパンマンみたく無条件に差し出すやさしさは、それが尊く素晴らしい行いであっても人間界ではアンパンマンの世界のように受け入れられないこともあって。

 わたしは無邪気な我が子を抱き寄せて独りごつ。

 やなせさん、凄いもの創りましたね。

 

 味方するつもりで放った言葉を誤解されて怒られた。優しく尽くし過ぎて相手をつけ上がらせた。一緒に並んで涙したら騙された。すごくピュアな気持ちで寄り添っても、木端微塵になることは少なくなかった。だからそのときは物凄く傷付いている自分に出会い。今度は不用意な言葉がひとを傷付けてしまう。書くよりも話す方がわたしにはずっとむつかしい。そのくせ会話好きで困る。ほんとうに言いたいことが言えなくて、本音じゃない毒を吐いてしまったこともある。深く落ち込んで立ち直りに時間を要す。

 だのに、アンパンマンときたら新しい顔いっちょで回復するんだもの。あんた本当に心あんの?って言いたくなる。アンパンマンの世界に羨ましさもあるんだろう。

 善は善として、絶対的価値を認められているのか、誰もがアンパンマンの善をすんなり受け取る。わたしはもしかするとアンパンマンに嫉妬しているのかもしれない。

 悪は悪として、絶対的にこらしめられる姿を見ていると、その悪がどのようにして辿り着いた悪か、確かめた方がいいんじゃない?と、言ってみたくなるのです。

 

 そんなことを思うママの心つゆ知らず。チビちゃんは、今日も元気に脇腹目がけてアンパ~ンチ!と容赦なく立ち向かってくる。

 バイバイキ~ン♪