どっちがメイン?どっちもメイン!

 今も、それぞれの町に、お好み焼き屋さんを見かけるとホッとする。粉もの文化が根付く地域で育ったわけではないが、単純に、祖母の好きなものの一つが、お好み焼きで、我が家の食卓には定期的にのぼっていた。
 その当時は、お好み焼きミックスなるものはなかったので、小麦粉に、すった山芋、卵、キャベツの千切りを、昆布出汁水でといてタネを作っていた。
 食卓のTV画面は殆ど野球中継で、父は時々びくっとするような歓声をあげた。
 子どもの私は、祖父と父が飲んでいるビールの泡がつぶれていく様子や、焼けたお好み焼きの上に踊るかつぶしを眺めて面白がっていた。
「もっとかけて」と、ソースを塗りたくる祖母は、トマトにもソースをかける。
 関西にいる叔母は、観光業におつとめで、関西圏の美味しいものをあれこれ贈って下さる。祖母が死んだあとも、父宛に届く。
「アンタはこれが好きやろ、美味しいゆうてたさかい」と。
 それで、大阪には美味しいソースが色々あると知った。ヘルメスという2ヵ月待ちのソースや、焼きうどんに合う金紋ソース、いちじくを使ったツヅミのソースなど。
 子どもの頃、我が家にあったのはカゴメのソースとオタフクソースだった。
 オタフクソースは、大正11年に酒と醤油の小売業として創業、以来1世紀に迫る盤石さで、愛され続けている。昭和20年8月6日の被災後、焼け跡にバラックをたて、食堂(マルキ)をオープン、という話を知って思わず泣きそうになった。私の祖母は被爆者であった。それにマルキって!『仔犬のワルツ』が誕生したショパンの愛犬の名前である。


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 商店街のなかには、いくつかの軽食屋があった。小学生も高学年になると、時々、友人とお好み焼き屋さんに行くこともあった。ただ、目的の半分は、読みたいマンガ本にあった。
 BOOKOFFがなかった頃、町には古本屋さんがあって、古本屋さんに行くときは、予め買う本を決めておいた。定期購読コミック(本屋さん)、気になって読むもの(軽食屋さん)、書店で見かけないけれど欲しい(古本屋さん)というように、マンガ本に接する3通りを守っていた。あの頃、古本屋で買った手塚治虫の『ザ・クレーター』は今でも好きなマンガベスト10に入る。
 目の前で今、すくすく育つ子どもを眺めていると、彼らはタブレットやゲーム機のなかに、音声や立体を見ている。
 わたし達が平面に置かれた絵や文章から、声や場の動きを想像したのと違うカタチで、彼らは感じとっている。もちろん、紙の中にある従来の良さだって彼らのそばに寄りそっている。


―了―