映画所感🎞️

 ミア・ファローといえば、1978年版のナイル殺人事件を観た時に初めて知り、何だかこう内臓に掴みかかってくるような演技をする役者さんだなぁと思っていた。

 今夜は『フォロー・ミー』という映画を鑑賞し、思わず飛び跳ねた。良い良いではないのォ

 ミア・ファロー演じる愛らしい妻ベリンダは、地位も財産も申し分ない英国上流階級に属する夫との結婚生活に、わびしさを抱えてロンドンの街中をひとりさまよっている。

 しきたりの中に、妻の心まで閉じこめようとする夫に抵抗する妻が欲しいのは、お互いの心を自由に愛すること。ささやかな愛。すれ違う夫婦の間に登場するクリストフォルーは、ベリンダの夫が妻の不貞を疑って雇った探偵だが、この彼、非常に魅力的だ。

 尾行一日目。ベリンダはピサの斜塔と名付けられたパフェを食べる。偶然にもこれはクリストフォルーの好物でもあり、彼も同じものを食べる。ここにポワロが居合わせたなら、三人並んで同じパフェを食べるかしら?と、私は妄想を楽しむ。

 ケンジントン・ガーデンズで愛らしいピーターパン像を眺めるベリンダを眺める探偵。

 そのあと映画館では2本立てホラー映画を×2回、なんと620分見続けるベリンダから一瞬目をはなし、映画館の外へ出て買い食いする探偵。けわしさとか疑り深いまなざしとかそういうのは彼にはない。

 カリフォルニアでヒッピー暮らしの経験ももつ自由な精神を備えるベリンダは、夫の周辺にある空気から逃れて、ひとりイルカのショーを見たり、パブで踊ったりするが、振り返るといつも自分の後ろにクリストフォルーの姿を確認し、始めは気味悪がっていた。

 ある時、探偵は尾行を先導に切り替え、面白い通りの数々をベリンダに教える。シカ肉通り・ビネガー広場・フィッシュ通り。アルカイックで陽気なパントマイムを繰り広げる彼に心惹かれるベリンダ。ハンプトンコートの庭園迷路を無邪気にかけ回るふたりの姿は、何故だか天使の遊戯みたいだ。言葉はない。ただ笑顔と無言の合図で、ゆで卵の殻を割るシーンは最高に良い。

 

 探偵が夫婦にさずけた案は、語らず、一定の距離をもって、いつも一緒にいること。人間同士にはむずかしく感じるけれど、異種ならばありふれていると思った。足もとと靴のように。

 

 

 

了―

 

 

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