2021-01-01から1年間の記事一覧

居心地

商店街の中に、母に連れられて行くブティックがあった。だいたい季節の変わり目に連れていかれる。退屈だった。子どもの私は人見知りで、あんまり笑いもしないから、「もうちょっと愛想ようせんね」と、よく注意されていた。 アシンメトリーのボブヘアをした…

どっちがメイン?どっちもメイン!

今も、それぞれの町に、お好み焼き屋さんを見かけるとホッとする。粉もの文化が根付く地域で育ったわけではないが、単純に、祖母の好きなものの一つが、お好み焼きで、我が家の食卓には定期的にのぼっていた。 その当時は、お好み焼きミックスなるものはなか…

シーグラスの池

用はないのに足を運ぶ店があった。子どもの頃、私にとって、雑貨屋さんはそういう場所だった。 フランフランやアフタヌーンティのように大型のものじゃなく、もちろん100円ショップもない頃。町の雑貨屋さんにはそこだけの空気が漂っており、子どもの私は…

マネキン

半年もの間、裸のマネキンはフロアの端に寄せられていた。そこは郊外のショッピングモールで、閑散とした店の並びを見ていると、古い記憶が引っ張り出されてくる。 故郷のアーケードはかつて栄えていた。全蓋式アーケードに立ち並ぶ店は、多種雑多の賑わいを…

フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅳ ~夜は朝を抱きしめたあと静かに仮死し…~

あの大きな手から繰り出される繊細な音が、ここにいる人、ひとりひとりの無数の記憶を手繰り寄せ、感情を揺らしている。 氏のラヴェルを聴きながら、感極まっていると、薄明りの方々から、すんすんと泣き声がする。 ラヴェルで湿り気を帯びた胸に、リストの…

フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅲ 言葉はその感情の許容量をはかれない

目が覚めると、父に頻繁に電話していた冬の頃を思い出す。 *** どう?調子は、と聞いたら、こんなリハビリをした、こんな食事が出た、とか。院長回診があり縮小版白い巨塔みたいだった、とか。父は母と違って話を面白くする為に盛るとかそういうところが…

フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅱ

モーツァルトで一部が終わる頃、頬の上で乾いた涙が少しだけヒリヒリするので、化粧室に立った。 鏡を覗く。目が輝いている。こんな時、私はいつも思う。私よりも私を知る私がいて、この容れものに感謝する。何ひとつ、私は自分でつくっていない。目も髪も指…

フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅰ

そばにあると思っていたものが、突然遠い。 距離とは何だろうと、このところ考える。今このホールで、皆ちがう席に着いて彼女の音を聴いているけれど、最前に座るのと一番後方で座って聴くのとに、物理的距離以上のことはないと感じるようになった。 若い頃…

フジコ・ヘミングの夜

Fujiko 音は言葉を超えてしまい、言葉は音の恩恵を存分に受けてしまう。 某日、私は紀尾井ホールにいて、ステージ上に飾られた大きな丸い玉を見つめていた。一階隅の座席に深く腰を落ち着け、弾む心臓の音を聞いていると、座っていた私の隣に来た品の良い老…

アポリア

かけるちゃんと遊ぶようになったのは、今から5年前の夏だった。夏だと覚えているのは、初めて自宅へ伺ったときに、かけるちゃんのママがくれたスイカの玉が、ほんとうに綺麗で、小ぶりではあるがズッシリ手応えのある重みに、もう見るからに美味しそうだっ…

コロナと習慣

―ひとの習慣は変わらない― 習慣の固着は、推理小説等を読む上では古典的な面白みがあるのだけれど、この度のコロナ世界が知らしめてくれたのは、ひとの習慣は渋々変わる、という心許ないリアルだった。 世界中のひとが、またたく間に眼鏡よりもマスクをかけ…

🍷

飲みながら下手なピアノを弾き、きもち良く爆睡。お酒はいいねぇ❣️