おばあちゃんが死んだ。そう聞いたとき、わたしは苺の香りがする赤いグミを噛んでいた。
おばあちゃんは、夫であった人の骨を抱いて、片目で六十代まで生きた。もっと生きていてほしかった。わたしがおとなになって、おばあちゃんがこどものように話すのを聞きたかった。
* * *
その半月に立つわたしは小さな満月に憧れるのかもしれなかった。
そろそろグミのいる部屋を出ようかと思いまして。
だからいませんってば。
そういうことじゃないの。だけど……胸に描くイメージをうまく伝えきれない。すっかり来なくなったスケッチおじさんがいたベンチを見つめた。描いてくれないかな、胸に広がり出した内側の景色を。
手紙、書きますよ、住所教えてください。
家を決めるまでマナちゃんとこに居候だから、落ち着いたらこっちから書くね。
お、マナちゃん合格したんですか?
夜間の方にね。昼間はアルバイトするんだって。
まきこ、寂しがってますよ絶対。
また頑張る子が来るって。
ようこ、来週から復帰しますよ。
うん、あの人と喧嘩したことは忘れない。
先週、見舞ったときに別れを告げてある。過労からくる帯状疱疹がひどくなり、入院していた彼女も、予想よりうんと元気でいて安心した。小さな花束を喜んでくれた。またいつか、くじらと馬刺しを食べに来いと、男っぽく笑っていた。
空港には、らぶちゃんが見送りに来て、新しい職場にも必ず会いに行くねと、向日葵が咲くみたいに笑ってくれた。
わたしは主翼のそばの席に腰掛け、せり上がってゆく機体からはがれる滑走路を眺めた。
―了―