白い夜の月 7

 おねえさんのスカート素敵ですね、と言って、金髪ボブショートの愛らしい女の子が話しかけてきた。グレープ色のシルク素材、裾に小さな蝶の刺繍。これはひとつ前のコレクションだけれど、今季も素敵なものが色々入ったから、良かったら見に来る?その流れで、らぶちゃんはうちのお客さんになり、そのまま飯友になっていった。

 らぶちゃんはもともと博多っ子で、この街には1年だけ住みにきたという話だ。某ホテルでパティシエの見習いに就いたものの、2年目に小さな挫折をし、再就職までの間をしばらく自由にさせてもらっているらしい。


 父親が経営者でうまくいってると、人生ラクちんですかね?


 ひとによるんじゃない?ハラちゃんのお父さんだって経営者じゃなかった?


 うちは自転車操業ですから、そろそろ潰れますって。


 ふうん、とそれ以上は聞かず、顧客に向けてプレセールのDMを黙々書いていたら、横切る大きな男が、SMILE!と小さな箱を投げてきた。アーモンドキャラメルだ。


 パチンコ?


 彼はこくこく領いた。


 店長、今日来てないよ。


 大きな男はしょげた。


 しょげた彼を見ていると、らぶちゃんが今夜のじかんを知らせに来た。


 19時半に迎えに来るから。と言うらぶちゃんは大きな男を見て軽い挨拶をした。元彼が米国人のらぶちゃんは彼と楽しげに会話し始め、わたしは店に入ってきた新規のお客様に付き添った。


 夜、らぶちゃんとわたしはさとるくんの家に居た。彼に会うのは2度目で、今夜はホラービデオ鑑賞会の約束をしていた。らぶちゃんとさとるくんは仲良しだが、ふたりはモロに爽やかな友情を目指していると言った。さとるくんがそんな強さを持っている男の子じゃないことはピッときた。ヴィジュアルバンドのメンバーにいるようなルックスで、服のセンスが良く、非常に繊細な話し方をする。3人で宅配ピザをかぶかぶ食べながら、シャンパンを飲んだ。さとるくんはシャンパンが好きでらぶちゃんはワインが好きでわたしはビールが好きで、さとるくんはワインが嫌いでらぶちゃんはビールが飲めなくてわたしはシャンパンが苦手だ。食べ終えて、ひと息ついたところでさとるくんはニコルのシャツを脱いだ。ニコルとワイズとポールスミスが好きらしい。


 ハニーマスタードプリッツを齧りながら、スクリーンの中にいるキンダーマン警部に向かってふんふん頷いている私を他所に、らぶちゃんとさとるくんは愛犬の話に興じている。


 キタ!神父きた!


 静かに観てよ


 やっぱメリンVSリーガンより、モーニングVSカラスの方がドキドキする


 何言ってんの?


 カラスの意識に呼びかけるモーニング神父とキンダーマン警部を見つめながら、ふと、三位一体のことを思った。

 儀式にはおおむね聖書が携えられているが、書かれていない言葉の、そのゆるぎない概念に向かって、信仰が打ち勝つとき、一時的に悪魔は退散する。


 別に悪魔祓いじゃなくてもさ、有事に付焼刃じゃない人間が居合わせることの方が、救われるよね。


 送るよ。


 らぶちゃんのワーゲンは坂のだいぶ上からゴロゴロ降りて、平らになった街並みのなかにわたしを降ろして走り去った。


つづく