フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅱ

モーツァルトで一部が終わる頃、頬の上で乾いた涙が少しだけヒリヒリするので、化粧室に立った。 鏡を覗く。目が輝いている。こんな時、私はいつも思う。私よりも私を知る私がいて、この容れものに感謝する。何ひとつ、私は自分でつくっていない。目も髪も指…

フジコ・ヘミングの夕べ・Ⅰ

そばにあると思っていたものが、突然遠い。 距離とは何だろうと、このところ考える。今このホールで、皆ちがう席に着いて彼女の音を聴いているけれど、最前に座るのと一番後方で座って聴くのとに、物理的距離以上のことはないと感じるようになった。 若い頃…

フジコ・ヘミングの夜

Fujiko 音は言葉を超えてしまい、言葉は音の恩恵を存分に受けてしまう。 某日、私は紀尾井ホールにいて、ステージ上に飾られた大きな丸い玉を見つめていた。一階隅の座席に深く腰を落ち着け、弾む心臓の音を聞いていると、座っていた私の隣に来た品の良い老…

アポリア

かけるちゃんと遊ぶようになったのは、今から5年前の夏だった。夏だと覚えているのは、初めて自宅へ伺ったときに、かけるちゃんのママがくれたスイカの玉が、ほんとうに綺麗で、小ぶりではあるがズッシリ手応えのある重みに、もう見るからに美味しそうだっ…

コロナと習慣

―ひとの習慣は変わらない― 習慣の固着は、推理小説等を読む上では古典的な面白みがあるのだけれど、この度のコロナ世界が知らしめてくれたのは、ひとの習慣は渋々変わる、という心許ないリアルだった。 世界中のひとが、またたく間に眼鏡よりもマスクをかけ…

🍷

飲みながら下手なピアノを弾き、きもち良く爆睡。お酒はいいねぇ❣️